2023年9月18日月曜日

持ち家か賃貸か 改訂版

 持ち家か賃貸かという記事を以前書いた。この記事は大雑把に言うと、持ち家と同額のお金を用いた投資とを比較したとき、期待リターンという視点でどちらが良いかを検討したものである。

しかしながら、この記事は2つの重要な点を考えていなかった。

  • そもそも持ち家を検討する理由として、賃貸市場に自分の要望に合致する物件がないという理由があるだろう。例えば特定の学区に6LDKの物件がほしい、また2世帯住宅でキッチンを2つ作りたいなどという要望を賃貸市場が叶えられるとは限らない。
  • 期待リターンだけを考えるのは片手落ちで、期待リスクをセットで考える必要がある。期待リターンが低くても期待リスクがより低ければ的確な投資対象と言える。厳密さを欠く説明であるが、たとえば米国債は期待リターンは米国株に劣るが投資対象となるのは、期待リスクが相対的に小さいためである。
2点目についてもう少し掘り下げてみる。再び厳密さを欠く説明であるが、一般に期待リターンは期待リスクによって定まる。不動産でいうと、物件Aのほうが物件Bより期待リスクが高いとすると、物件Aのほうが物件Bより期待リターンは高くなければ売れない。理想的な市場では、高いリターンを得るにはリスクを取らないといけないし、リスクを取りたくなければリターンを妥協する必要がある。

ところが、実際には市場は理想的(効率的)ではない。なぜなら、あなたは他の市場の参加者が知らない情報を持っているからだ。それは、あなた自身が、この街で、特定の条件の物件を求め、住み続ける予定であるという情報である。このインサイダー情報をもった投資家のあなたは、その条件にマッチした物件を作り上げ、実際には少ないリスクにも関わらず他の競合と合わせた家賃に設定し、賃借人のあなたに貸し出し高いリターンを稼ぎ出すことができる。

こう考えると、実は上の1点目も2点目の一部として説明できるように思える。すなわち、特殊な条件の物件は期待リスクが高いため、”インサイダー情報”の価値が非常に高くなり、通常の賃貸がビジネスとして成立しない、といえるといえるのではないか。

前回の記事ではローンの利率や税金等について議論したがそれは些末な話であり、この”インサイダー情報”の価値が持ち家と賃貸の本質ではないか? あなたはいかに市場が驚く情報=特殊で妥協できない条件を持っているか? 持っていれば持ち家が有利であろう。逆にあなたの家さがし条件が大多数の人の条件と変わらないならば、あなたは他の投資家よりさして有利になることはできず、持ち家と賃貸はほぼ同等となるだろう。

2023年7月24日月曜日

持ち家か賃貸か

 東京に長居するつもりはなかったのだが、気づくと人生の半分を東京で過ごしていた。賃貸住まいを続けてそのほうが自分に合っていると思っているのだが、ここでいまいちど持ち家とのメリット、デメリットを比較しておきくなった。


持ち家と賃貸との比較なんてありふれたテーマで、検索すればいくらでも記事が出てくると思われるかもしれない。しかしそれらの記事は、家賃や、ローン、修繕費、登記費用、固定資産税といった見える経費にだけ着目して、もっと重要なことを忘れている。


あなたが、5000万円のローンを借りれる信用があったとする。それで自宅を買うのは悪い選択ではないだろう。しかし、同じお金を借りて、株や別の不動産に投資するのはどうか。運用益が上がれば、家賃を払ってまだお釣りが来るかもしれない。そうすれば、持ち家より手戻りが多いかもしれない。持ち家と賃貸はそういったことも含めて比較すべきではないか?


ひょっとするとお金を借りて株や不動産に投資するのは危険だと思われるかもしれない。確かにそうだ。しかしそれは住宅ローンも変わりはない。あなたは本当に何十年間もローンを払い続けられるだろうか?もし払えなくなれば、人生の夕暮れに無一文で家を追い出されることになることもあるだろう。念のため、私は住宅ローンを組むべきではないと言っているのではない。借金をして投資するのと本質的に変わりはないと言っているのである。


前置きが長くなったが、本題に入ろう。あるお値段、例えば5000万円の自宅を購入した場合と、同額を株や他の不動産に投資して自宅には家賃を支払い続けた場合を比較してみる。ここでは比較を簡単にするために株ではなく不動産に投資したとして考える。なお参考までに、配当も含めた過去10年の株の利回りと不動産の利回りはほぼ同じだというデータがあるので、実際には好きな方に投資すればよいだろう。


さて、自宅購入と不動産投資を比較すると、多くの経費が共通である。購入の仲介費用、登記費用、管理費、修繕費、固定資産税は、自宅に対するものか投資物件に対するものかの違いで、どちらでもかかる。家賃は収入と支出が両方あるので差し引きゼロと考えるとやはり同じだ。キャピタルゲインも同じ。これらを考慮しなくていいとすると計算が楽である。


違いはなんだろうか?


先程家賃は差し引きゼロといったが、不動産投資の場合貸す側に空室リスクがあると思われるかもしれない。しかし、持ち家であっても、転職や転勤、また離婚、死別、子の独立で、全部または一部の部屋が「空室」になることは珍しくない。個人の状況や物件によるが、私は空室に関しては持ち家のほうがもしろリスクが高いのではないかと考える。


ローンの税率はどうか?一般に住宅ローンの税率は他のローンに比べて低いので、持ち家のほうが得であることが多い。


賃貸の仲介費用はどうか?これも持ち家が有利である。当然ながらこの費用は不動産投資&賃貸の場合のみかかり、しかも貸す側と借りる側の両側でかかる。長期で見ると家賃の10%くらいだろうか。


家賃収入の税金はどうか?これも当然不動産投資&賃貸の場合のみかかる。家賃収入は個人事業主の場合、経費を除いたあと総合課税となり累進税率となる。直接不動産を所有せずにリートに投資した場合は、やはり経費を除いたあと、分離課税が選べて税率約20%となる(法人税もかからない)。他の収入によってどちらが有利かは変わるだろう。一方家賃を払う側は、借り上げ社宅を使えれば家賃の累進課税分の還付が可能な場合がある。このメリットは大きく、借り上げ社宅が使えない場合は家賃の20%くらい税金で取られるが、使える場合は逆に家賃の20%以上戻ってくる可能性がある。


譲渡所得税は、非課税枠のある自宅のほうが有利であるが、特に新築物件だと価値が下がることも多いので、ここでは考えないものとする。


最後に相続税も、自宅のほうが非常に有利になりうる。小規模宅地等の特例が使えると、土地の評価額は何と80%減額される。もっとも、相続税の対象となる財産と相続したい相手がある場合に限られ、またその場合でも相続はそうそう頻繁に起きるものではない。財産が十分にあり3年後に死ぬ場合家賃の100%以上得になりうるが多くの場合、期待値は家賃の5%を下回るであろう。


以上のことより、持ち家と賃貸がどちらが得かは、多くの場合持ち家のほうが得になると考えるが、(1)持ち家にした場合の将来の「空室」率の見積もり、(2)住宅ローンと不動産ローンの差額、(3)借上げ社宅制度が使えるか、(4)相続税の期待値、などによって変わりうる。もっとも先に述べたように、これは例えば5000万円のローンを組むリスクを織り込んで、どうせローンを組むならば自宅を買ったほうが良いという話であることは念頭においていただきたい。

2020年7月6日月曜日

新型コロナウィルス感染者数予測

東京都の新型コロナウィルス感染者数の推移は対数表示で直線的なグラフになっている。

したがって、将来を予測することは容易である。
幅はあるが、8月1日時点で600人/日程度の感染者数を予測する。

注: これは5月21日以降の感染者数の7日移動平均の増加率の対数が、独立かつ正規分布に基づくという都合の良い仮定に基づいた予測である。一応ここまでのところ、正規分布に似た形はしている。




2019年6月27日木曜日

トランジット入国不可

バンコク・ドンムアン空港のトランジットの数時間で、バンコク市内に行ってこられると思っていたが、乗り継ぎ航空券では制限エリアから出られないと入国を拒否された。

ドンムアンでトランジット中に観光したいと計画している方に注意喚起しておく。

追記: 条件が異なるが、帰りは入国できた。

2019年6月1日土曜日

キーボード分解のすゝめ

先日デスクトップPCのキーボードをウィスキー漬けにしてしまい、a以外のキーが反応しなくなってしまったのだが、どうせ捨てるなら分解してみようと中の配線にテスター当てていたら、何もしていないのに完全に直った。おまけに酒漬けにする前よりも反応が良くなった気がする。

写真は分解途中のもの

しかしこのキーボード(PD-KB02)、10年以上前に学生時代に拾ったもの、最初の持ち主から数えると一体何年ものだろうか。

2018年12月9日日曜日

携帯修理 Zenfone 編

先日ジョギング中に スマホを落としてしまうという事件があり、縦に1本大きくひびわれが入ってしまった。



スマホは1月にビックカメラで買った ASUS (エイスース) 製の Zenfone 4 Max Pro。3万円以下という低価格ながら、電池が一般的なスマホの2倍という破格の大容量 であり、これを持ってからバッテリーの残量を気にすることがなくなったという画期的な機種である。あの何かと面倒なモバイルチャージャーと完全におさらばすることができる、 面倒くさがりに 忙しい大人におすすめの携帯である。

さて、前述にように縦にひび割れが入ってしまったその Zenfone であるが、タッチパネルの反応には問題なく、実用上はこのまま使い続けでも良かったが、携帯を見るたびに心が痛く、心がはりさけそうで、ついに心臓が2心房2心室に分離してしまったので、これではいけないと修理することにしたのである。

まず向かったのが、近所のガバーガレージ恵比寿店。Googleで星 4.7 の評価の高い修理店である。きっとこの店なら安くて質の良い修理をしてくれるに違いないと思って向かったのだが、なんとここで提示された価格はなんと 2万円以上! 穏やかそうな店員さんに、おせっかいかもしれませんがこれなら修理するより中古で買ったほうがいいですよと言われる。たしかにそうだ。

やっぱり修理は無駄か…と、新機種購入に心が傾きかけたが、都内に ASUS の直営店があるということで、ダメ元でそちらでも聞いてみることにした。一般に正規の修理は高いが、なにか諦められないような気がしたのである。店は ASUS Store Asakusa といい、今年 2018 年 3 月に東京・赤坂にオープン、日本唯一の ASUS のリアル店舗である。寒波の北風のなかチャリを漕ぐと自宅から 20分 ほどで店に着いた。

アップルストアのおしゃれさというよりは ASUS らしい機能性を感じる店に入ると、若い真面目そうな店員さんが応対してくれた。店員さんは携帯を見て、ちょっと調べますと店の裏に消えた。いくらまでなら修理しようか。 2万円は高すぎる…それなら新機種にしよう。万が一1万5000円を提示されたらどうしよう…迷うところだ。店員さんはほどなく戻ってきて、見積もりの結果を告げる。耳を疑った…なんと、部品代4000円と工賃5000円あわせて9000円だというのである。安い!

ASUS の直営店は初めて訪れたが、価格は良心的で、手続きもスムーズであった。何より対面であることで、郵送するコストや手間がないほか、代替機をその場で貸し出して貰える。東京に住んでいて、この直営店があるうちは、 ASUS のサポートはキャリア端末と同等かそれ以上と言えるのではないだろうか。

2018年11月11日日曜日

株式投資の時間分散は意味があるか

分散投資は投資の基本とされている。確かに、 1 社の株式に依存するのは危険だ。東電やJALに資金のほとんどをつぎ込んで失敗したという記事は検索すればたくさんヒットする。実際、 2017 年の Google 社の株価の標準偏差は 8.4 % 程なのに対して、米国主要企業 500 社の平均である S&P 500 の標準偏差は 4.6% 程である。  2017 年に Google 社の業績が急激に改善したり悪化したというわけではないが、それでも S&P 500 のほうが2倍近く安定した数値となっている。この差は Google 社の業績に大きな変動があったならばより顕著になるだろう。

このように 1社に投資するより数社以上、またはインデックスに投資するほうがリターンは安定することは半ば自明である。とはいえ  500 社の平均である S&P 500 ですら、 2017 年の標準偏差は 4.6% あった。平均との差が標準偏差 σ 内に収まる可能性 は 68% 、標準偏差の2倍 2σ の内で収まる確率は 95% であるから、2017年のランダムな日で売却した場合、 32% の確率で 2017 年の平均リターンを 4.6% 以上上回る、あるいは下回る。また 5% の確率で 9.2% 以上上回る、または下回ることになる。すなわち 1000 万円の平均リターンが期待される場合、売却する日の選び方で、 ±92万円程度の差は普通に出るといえる。1億円なら 920 万円程度の差は出る。コツコツためてきた株式を 500 社に分散したとしても、売却のタイミングの偶然によってこれだけの差が平気ででる。これは忍びないので、どうにかさらにリスクを軽減することはできないだろうか。

そこで思いつくのが時間分散という手法である。これは、1回にすべてを売却するのではなく、数回に分けて売却することによって、たまたま株価の安い日に売却してしまうリスクを軽減するという趣旨のものである。極端な例を言えば、 2017年のランダムな1日で売却するかわりに、毎日 1/365 ずつ (正確には毎営業日ずつだが) 売却すれば、必ず 2017 年の平均リターンが得られることになる。これは、リスクを減らす上で一見意味があるように思える。しかし、実際に計算してみたところ、そう単純な話でもないようなのである。

計算の内容はこうだ。A さんは、実際に資金が必要な日に、保有する S&P 500 (に連動する ETF) を全額売却する。 B さんは、資金が必要な日の1年前 (52週前) から、毎週 1/52 ずつ売却する。資金が必要な日が2013年1月から2017年12月までのいずれかの日だったとして、AさんとBさんの得られる資金の標準偏差はどのようになるだろうか。計算の結果は、 Aさんの標準偏差は 15.0% だったのに対し、 Bさんの標準偏差は 14.7% となった。驚いたことに、二人の標準偏差の差はほとんどなかったのである。

最初これの意味することがよくわからなかったが、よくよく考えてみれば当たり前のことである。すなわち、日々の株価の変動は確かに大きく見えるけれども、 2013年から2017年の5年という長いスパンで見たときは、長期的な変動のほうがはるかに大きい。これは実際のチャートを見るとよくわかる。52週平均線が大きく5年で動いているところ、 日々の変動はそれに比べると小さい。5年スパンで見ると、1年間の時間分散にかけたコストと手間は、残念ながら標準偏差を 15.0% から 14.7% に下げるほどの価値しかない。

ならばより長期で分散すれば良いと考えるかもしれないが、結局それもさらに長期から見ると価値のない行動となる。また、より長期にすると、 S&P500 の上昇トレンドを考えたときに、標準偏差以前に平均リターンが大きく下がってしまう可能性が高く、そもそも株式投資をする意義とは何だったのか、ということになってしまう。

自分なりの結論。時間の分散は長期スパンで見るとリスク回避に対してほぼ無価値である。そもそも株式に投資すると決めた以上 年間で 10%、 5年で  30% 程度の変動は許容する必要がある。株式とはそういうものであり、時間の分散でそのリスクを大きく減らすことはできない。